立身流に於る 精神統一法

立身流第22代宗家 加藤紘
佐倉市民体育大会剣道大会講話録
平成25年6月2日
於 佐倉市民体育館
[平成25年7月30日掲載(禁転載)]

  1. 昨年の佐倉市文化祭剣道大会で立身流の「心の術」についてお話ししました。
    その際、簡単にいってしまえば「全てを忘れなさい。頭の中を「から」にしなさい。そして気持ちと身体を充実させなさい。」ということになるでしょう、と述べました。
    ですが、そうなる為にはどうしたらいいのでしょう。
  2. 立身流には七戒というものがあります。
    驚(キョウ・おどろく)、懼(ク・おそれる)、疑(ギ・うたがう)、惑(ワク・まどう)、緩(カン・ゆるむ)、怒(ヌ・いかる)、焦(ショウ・あせる)の七の戒です。これらを生じることなく、無念無想すなわち、立身流という「空(くう)」の境地に達した人は名人です。しかし、簡単に名人にはなれません。また、例え名人でも「深夜聞霜」[立身流居合目録之巻、深夜に霜が降る音が聞こえる程の無我の心境]の状態を常に保持するのは難しいでしょう。
    そこで、自らの心身を「空」の状態に導入する精神統一法が研究されています。
  3. 立身流には、九字十字之巻の一巻があります。
    そのうちの兵法九字之大事(へいほうくじのたいじ)では、臨・兵・闘・者・皆・陣・烈・在・前(りん・ぴょう・とう・じゃ・かい・じん・れつ・ざい・ぜん)の九字(くじ)を唱(とな)えつつそれぞれの印を結び、五ヶの消除行から選んだ行を行ったり、四堅五横(しけんごおう)に九字を切ったり、梵語を発しつつ四明(しみょう)、拍掌(はくしよう)、弾指(だんし)等をする儀式を行って精神を統一させます。更に、十字之大事(じゅうじのたいじ)としては、勝:鬼:天:虎:水:大:命:會:龍:行の十字のうち一字を九字に加えることも出来ます。
    そのうちの「勝」(しょう)は次のようになっています。


     軍陣出時(ぐんじんいずるとき)
     昼夜観念同(ちゅうやかんねんおなじ)


    軍陣其他一切勝負㕝出時可切加比字又左手内持必得勝利・・・
    (ぐんじんそのたいっさいのしょうぶのこといずるとき、このじをくわへてきるべし。また、ひだりてのうちにもつ。かならずしょうりをうるなり。・・・)左の掌(てのひら)に「勝」と書けば、勝を得ることができるというのです。
  4. 立身流立合目録之巻の中に「陰 五个 有 口伝」(かげ・ごか・くでんあり)というのがありますが、その最初の口伝が「小スイ」と言われるものです。
    小水をすると呼吸が整えられ落ち着きます。
  5. 立身流居合目録の「陰 五个 有 口伝」の中の一つは、「目ヲトチ(閉じ)(ホウ(頬)ヲナデナガラ)呼吸ヲ一ツツヽカゾヘル也。自然ト心気治也(ヲサマルナリ)」とされています。
    目をとじて、呼吸を一つずつ、数えるのが肝要です。
  6. 「三呼吸の教え」
    立身流に伝わる「三呼吸の教え」では、一連の動作と他の一連の動作の間には、三呼吸の間(ま)をとるのが良いと言われています。例えば、居合演武の際の一本毎の間は、着坐し、静かに二呼吸の後、三度目の息を吸い終わった頃、刀を抜きかける位の間が最も適当とされます。
  7. このようにみてきますと、正座し、目を閉じ、自分の呼吸を数え、三度目の息を吸い終わった頃、静かに立ち始めるのが、今、この場でも出来る最も良い精神統一の方法といえるでしょう。

重要なのは
呼吸を、数を数えながら三回することです。
一、二、三、です。深呼吸でなくてもいいのです。
これをすると、戦いの前に落ち着くことが出来る。
これをすると、戦いの最中にも気を取り直すことが出来る。
これをすると、戦い終わって次の戦いに備えることが出来る。

一、二、三、です。

ぜひ試してください。頑張ってください。


【参考】

一、「立身流刀術極意集」(立身流第11代宗家逸見柳芳筆)中、「立身流傳受」より

  1. 「立合目録之分」中
    五个 有口傳
    山坂上り下り之時小便呼吸之為戰場平日共可心得(やまさかのぼりくだりのとき、しょうべんすること、こきゅうのためなり。せんじょうへいじつともこころうべし。)
    平日心掛小便アワ立様アワ無之時凶之あわ多クトモ凶我影移ル逆ナレハ凶也(へいじつのこころがけ、しょうべんあわだちよう、あわこれなきときはきょうなり。あわおおくともきょうなるは、わがかげうつる、さかさなればきょうなり。)
  2. 「居合目録之分」中
    五个 有口傳
    戰場平日共気付用心無之時戰ツカレ目マイ立クラミスル時刀ヲ杖ニツキ腰ヲ掛目ヲトチホウヲナデナカラ呼吸ヲ一ツツゝカゾエル也自然ト心気治也可心得(せんじょうへいじつとも、きつけのようじん、これなきとき、たたかいつかれ、めまい、たちくらみするとき、かたなをつえにつき、こしをかけ、めをとじ、ほほをなでながらこきゅうをひとつずつ、かぞえるなり。しぜんとしんきなおるなり。こころうべし。)

 

二、「立身流聞書」(立身流第21代宗家加藤高筆)より

 居合の鍛錬に於いて呼吸は最も注意肝要なり・即ち古来より所謂「三呼吸」の教へある所以にして業と業との時間的の間の伸びたるも、又、急ぎ過ぎたるも、共に良しからず。私見によれば、概ね、先ず、定位置に立つか着坐し、静かに二呼吸の後、三度目の息を吸い終わった頃、刀を抜きかける位の間を最も適当と思考す。然れでも只一人稽古の時は、心境が十分整ふ迄正坐を続け、明鏡止水の心境を得るに努むる事を肝要とす。而して、始めと終了後は坐礼の前にその正坐のまま眼を閉て、現前の一切を忘れ、瞑想をなすのも一方法なり(約二分位)。

2013年8月30日 | カテゴリー : 宗家講話 | 投稿者 : 立身流総本部