立身流に学ぶ ~礼法から術技へ~ (国際武道文化セミナー講義録)

第23回国際武道文化セミナー講義録(平成23年3月7日)

立身流第22代宗家 加藤紘
主催: 財団法人日本武道館
後援: 文部科学省 日本武道協議会
協力: 国際武道大学
通訳者: アレキサンダー・ベネット
[平成23年11月12日掲載/令和3年8月20日改訂(禁転載)]

第一、はじめに

立身流での演武や稽古は、流祖神妻山大明神や、稽古相手への礼から始まります。
神との一体化を目指し、稽古相手への敬意の念を表します。その為には、先ず、自分の心身を正しくしなければいけません。その正しい心身がそのまま、武術の基本です。

  • 己が身を正しくするは行儀也 人の正しきことにしたかへ [立身流立合目録之巻]

第二、姿勢

1、姿勢について
自らの身を正しくする第一歩は姿勢です。これが武術の出発点でもあります。

  • 我が体は曲がれるものと心得て 人の形に気をつけて志礼 [立身流俰極意之巻]
  • 十の字を我か身の曲尺と心得て竪も1なり横も一なり [立身流立合目録之巻]

曲尺(かね)とは法則の意味です。身体は、どこからみても、竪に真直、横に真直でなければいけません。竪1横一です。その姿は、杉の木が天に向かって伸びていく姿にも例えられています。

  • 思ひなく巧むことなくするすると身は若杉の立てる姿に [立身流歌]

2、立姿(実演)
力を抜き、身体の弾力性を保ち、足巾は狭くして何度か飛びはねた後の巾、足の重心は指の後ろ辺り、関節は突張らない程度に伸び、肱は体側に軽く接するか瞬時に接する事が出来るようにします(肱の逆をとられない)。手の指同士も同様です(同)。力を抜くのも、瞬時に変に応ずることができるようにするためです。

3、正座(実演)
力を抜き、両腿を拳一つ分位あけ、足の親指は重なるか接します。手は力を抜いたまま、股上に持ってきます。肩から下の腕の重心の影響で上腕部は垂直でなく、肘は少々後寄りの体側に位置し、手の平はほぼ大腿元にきて、両手首が両脇腹に軽く接するごとくになります。その他の肱、指は前同様です。肱を張ってはいけません。腕を組むのもいけません。立身流では腕を組むことを「腕あぐら」といいます。

第三、礼

1、礼について
礼は頭を下げるのではありません。腰を屈します。他は立った姿勢のままです。視線は顔の動きのままに動きます。

2、礼の動作
ここで初めて動作に入ることになります。もう、武術動作の段階に入っています。動作で重要なのは、呼吸との一致です。息を吐きながら屈体し、一呼吸置き、息を吸いながら上体を戻します。また、一拳動の中での序・破・急(冴え)が重要です。その為には力を抜いて弾力性を持った身体を作る必要があります。

3、立礼(実演)
力を入れない為、手が前方よりに下がりますので、そのまま軽く身体に寄せます。

4、坐り方(実演)
上半身直立したまま、両膝を同時につき、いつ停まったかわからない程静かに腰をおろします。

5、坐礼(実演)
腰が屈する時に身体につられて両手が前に出て床に着き、両手の人さし指先を接触させ、無理がなければ両手の親指先も接触させます。しかし、右手左手それぞれの人さし指と親指の間は開けません。両手の人さし指と親指先で小さく正三角形に近い形が描かれることになります。その位置は下げた顔のほぼ中央部にきます。上体は、ほぼ水平になるようにします。礼のとき、視線が顔と共に動くのは同様です。

6、立ち方(実演)
腰を上げ両膝をつくと同時に両足指を立てて活かし、上半身直立のまま立ち上ります。反動をつけてはいけません。膝が床につく時、足指が活きていることが、武術では必要です。

7、提刀、帯刀(実演)
立っているとき、刀は右手で、肱を張らず、指に力を入れずに栗形の辺りを掌、指でくるむように提げます。自然に刃が上になります。踵をやや開いた自然体です。下緒は三折りにして一緒に持ちます。

立礼の際、刀が上下に動いてはいけません。 刀が動くのは余計な力が入っているか、固まってしまっている為です。
坐礼の際、刀は右側に、刃を内側にして、鍔が膝頭に来るように静かに置きます。

立っての帯刀は、右足を少々前へ出すと同時に右人差指を鍔にかけながら右手も前に水平に出して半身となり、左手を補助として左腰の帯に鐺を差込み、滞らない動きで差し、刀身の三分の一位が後ろへ出たとき左手を鞘に添え、柄頭が身体の中央にくるようにします。大刀は左腰骨の上に乗せるようにして落着かせます。帯は大刀を腰骨上に乗せやすい位置に締めることになります。左手人差指を鍔にかけ、下緒を刀の後に垂らすか、袴の右前の紐に挟みます。右手を下げると同時に左足を右足に寄せ、最後に左手を下ろします。

冴えのある動きや、手の内、体勢など、武術の基本通りの動きになっている必要があります。動きは体幹側から始まり指先まで連動します。

第四、構

1、構について
立身流では、正しい姿勢をとることがすなわち、基本の構です。

  • 身構は横も一なり竪も1 十の文字こそ曲尺合としれ [立身流俰極意之巻]

2、構の動作
立身流俰目録第四十二条の「身構之事」では次のように説かれます(実演)。

前:
左足を約半歩(概ね肩巾)側方に開き、足先の方向を自然に保つ。膝を軽く伸ばし、上体は垂直にして腰の上に落着け、下腹部に力を溜め精神を平静にし、眼を敵に注ぐ。

左(表):
左足を半歩前方へ出し、その足尖を正面に向け、右足尖を自然の方向に向けて踵を僅かに上げ、上体は自然の方向を保ち腰の上に落着け、下腹部に力を溜め、精神を平静にし、眼を敵に注ぐ。

左(陰):
両肱を張ることなく、左拳を左肩の前方に出し、その肱を僅かに屈し、敵の顎に向く如くし、右拳は我みぞおちまたは顎の前方7~8寸に位置せしめ、両拳は軽く握り、掌を内側方に向かわしむ。

右(表・陰):
右(表・陰)も同様です。

3、刀術 中段の構(実演)
立身流刀術の構は中段が基本です。居合でも剣術でも必ず最後に中段に戻します。
上記身構之事をふまえ、その人の体格にもよりますが、左拳が身体の中央部に位置します。それに従い、身体全体も修正されます。

  • 居合とは俰の上に居合あり 居合のうちに俰あるなり [立身流居合目録之巻]

第五、足蹈(実演)

足の蹈み方には、大きくわけて、歩んだり走ったりする場合(方向転換を含む)と斬撃する場合とに分かれます。
立姿から、眼に見えない程少々重心が前に移り、足がこれについてきて、歩み始めます。両足は成可く平行となります(甲冑を着用しているときはやや異なる)。また、無理に足を上げません。後の足の踵は歩むとき軽く浮きます。

  • 足蹈は常の歩みの如くして おくれし足はかかと浮へよ [立身流歌]

身体の上下動、左右動、前後の揺れ、身体の捻じれ等がない自然の歩み、常の歩みをします。竪1横一を歩みや走りでも維持するのです。左への転回、右への転回、左回り後への転回、右回り後への転回、四方への転回等でも同様です。更に後進、左への後進、右への後進、左回り後進、右回り後進等でも同様です。

  • 行水の淀まぬ程をみても猶 わが足蹈をおもいあはせよ [立身流立合目録之巻]

居合や剣術は、この歩みあるいは走りの上に乗っています。

  • 敵は波 我は浮きたる水鳥の 馴れてなれぬる足蹈をしれ [立身流立合目録之巻]
  • 足蹈は大方物の始めにて いえの土台の曲尺と知るへし [立身流俰極意之巻]

第六、発声(実演)

通常の呼吸から始まり、次の段階を経ます。

1、桁打、旋打、廻打の発声(無声)

2.序之形の発声

(受方)イャイ~~~~~イャイー
(仕方)イェイ~~~~~イェイー

3、破之形の発声(居合の数抜も同様)

(受方)ヤーー
(仕方)エーイ

4、急之形の発声

(受方)イャイーー
(仕方)イェイーー

5、無声(居合)
「無声は有声に勝る」といわれます。有声を経た上での無声のことです。上記1、の無声とは異なる無声です。

第七、斬撃打突(実演、上段よりの斬、居合の円)

竪1横一を崩さず、斬撃打突します。斬撃の後も体を崩しません。
立身流では、身体の安定、大きく冴えのある動きを重視し、これが美しさを伴うことになります。大きな動き方が身につけば、同じ動き方を小さくすることもできますが、小さい動き方ができたからといって大きい動き方までできるものではありません。


【参考】 立身流歌

  • 息合を水入筒と打ちかへて 腰に附希へきものにそありける [立身流居合目録之巻]
  • 餘り身に過たる業を好ますに 進み退く事を覚えよ [立身流立合目録之巻]
  • 本の身は行くも留るもひくは猶 心にまかせ叶ふ身としれ [立身流直之巻]

以上