立身流に於る 一重身

立身流第22代宗家 加藤紘
平成27年2月15日
立身流第82回特別講習会資料
[平成26年6月21日公開/平成26年7月1日改訂]

第一、「一重身」(ひとえのみ、ひとえみ、いちじゅうしん)の意味

1、「一重身」とは、一般的に、壁などに正対しながらも左右の敵に対応せざるをえない場合などの体の状況を示し、現象としては、(強い)半身をとること等を意味します。敵を真向(まむこう)にとることができない、あるいは、しない状況です。

2、立身流の「一重身」の語は、このような場合の体のありようを示す言葉であって、このような場合にも姿勢を崩すことなく、安定した体勢にあるべきことを意味します。

3、拙稿「立身流に学ぶ ~礼法から術技へ」で私は、姿勢から武道(俰 やわら)の構、更に刀術中段の構えへの移行につき記しました。立身流での構の基本についての記載は次のとおりです。

第二、構

1、構について
立身流では、正しい姿勢をとることがすなわち、基本の構です。

•身構は横も一なり竪もⅠ 十の文字こそ曲尺合としれ [立身流俰極意之巻]

2、構の動作
立身流俰(やわら)目録第四十二条の「身構之事」では次のように説かれます(実演)。

前:
左足を約半歩(概ね肩巾)側方に開き、足先の方向を自然に保つ。
膝を軽く伸ばし、上体は垂直にして腰の上に落着け、下腹部に力を溜め精神を平静にし、眼を敵に注ぐ。

このように、敵と正対するのが出発点でそれが様々に変化していきます。構えの基本は正対です。
そして左(表、陰)、右(表、陰)と続き、刀術の中段の構に至るのでした。

第三、一重身の語の意図するところ

肩越しに敵を把握するような場合、竪Ⅰ横一が崩れ、重心、中心がぶれやすいものです。立身流ではこれを良しとしません。このような場合でも、竪Ⅰ横一に姿勢をとり、その姿勢を崩さず、重心、中心がぶれないようにしなければなりません。

  • 「体ハ真向二シテ鉄壁ノ如ク少シモ寄ルコトナシ」 「形容ヲ拵フルニ及ハスシテ体ヲ成スナリ」 (後記「立身流秘伝之書」)

つまり、一重身というカタチを殊更に作ろうとしてはいけない。体は、敵を正面にした場合の真向の姿勢、姿勢の基本、構えの基本に沿ってなければなりません。その基本がその状況に応じてその状況下での形容・かたちに現れるだけです。世に言われる一重身も、その現れの一場合にすぎない、と立身流では理解します。

基本は「真向」すなわち正対です。
半身をとる理由がなく、半身をとることが不自然な場合には半身をとってはいけません。
逆に、半身をとるべき場合に不自然に半身にとらず、わざわざ姿勢や動きをぎごちなくする人がいます。「真直ぐに」という言葉にとらわれ、頭だけで考えて整合性を求めるからです。具体的にいえば、体幹で武具を持たず、体幹で打突せず、手先の掌だけでこれらを行うからです。構でいうと、左上段、八相、肩上段、脇構、小太刀などに目立ちます。

立身流での一重身の語についての視点は、一重身というカタチにでなく、武道の体はどうあるべきか、にあります。あくまでも基本の具体化の一場合であって、これを特別視して独特の意味を付与したり重要視することはありません。

第四、一重身の現れ方

立身流傳書及び古文書の記載を引用します。

1、弓、鑓、長刀、太刀などはその武具や武具の持ち方に応じた姿勢で武具を手にします。

立身流秘傳之書中の「当流秘傳書」(安政三丙辰四月吉辰 立身流第17代宗家 逸見忠蔵筆)より抜粋。

「・・・太刀使 射弓 撚鎗者 体以 習初 教之 体 雖有様々形 体 真向而如鉄壁 少莫寄 是則常也 一重身云 用之体根元也 故此体以 弓鎗長刀何之物取 体別直非構 以其体取其物 不有其体云事無 射弓時 左手弓弣 右手弦矢ツカエテ 左方首回 的見込左右和合 彎之矢放寸 則矢己見込タル的ノ方エ行中也 形容拵不及成体也 鎗遣 則左手鑓柄中程握 右手鐏上握 両手一致 左敵斜眼見 則此鎗体 又太刀取握 上頭上被 左手臂下ヨリ敵見込 是則 一重身也 諸流共傳云 四寸之體ト云所ナルヘシ・・・」

「・・・たちをつかい ゆみをい やりをひねるもの たいをもって ならいのはじめとす。 これをおしうるに たい さまざまかたちありといえども たいは まむこうにして てっぺきのごとし。 すこしもよることなかれ。 これすなわちつねのことなり。 ひとえのみ(ひとえみ、いちじゅうしん)というも これをもちうるはたいのこんげんなり。 ゆえにこのたいをもって ゆみやりなぎなたいずれのものをとるとも たいをべつになおしてかまゆるにあらず。 そのたいをもってそのものをとり そのたいにあらずということなし。 ゆみをいるときに ひだりて ゆみをゆずかけ みぎて つるにやをつがえて ひだりのかたへくびをまわし まとをみこんでさゆうわごう これをひきてやをはなつとき すなわちやはおのれのみこみたるまとのほうへゆきてあたるなり。 かたちをこしらうるにおよばずして たいをなすなり。 やりをつかう すなわちひだりてやりづかのなかほどをにぎり みぎていしづきのうえをにぎり りょうていっちし ひだりのてきをしゃがんにみる すなわちこれやりのたいなり。  またたちをとりてにぎり あげてあたまのうえにかむり ひだりてのひじしたよりてきをみこむは これすなわち ひとえのみなり。 しょりゅうともにつたえいう よんすんのたいというところなるべし・・・」

2、鎧勝身(よろいかちみ) 立身流變働之巻
「鎧勝身 左右  是ハ太刀中段ニ致シ 敵打時 身ヲ 一トエ(一重)ニカエテ 敵ノ ノド 又 脇ノ下 ヲ突也」 (立身流第11代宗家 逸見柳芳筆「立身流刀術極意集 完」より)

3、壁添勝様之事 (立身流立合目録 外 より)
是ハ後ヨリ壁ヘツキツケラルル時 柄頭ニテトメオキテ 我ハ壁ヘスリヨリナカラ ヒトエ身ニ成リナカラ 直チニ サカテニ 抜突ク也」 (立身流刀術極意集より)

4、壁添勝様之事 (立身流居合目録 外 より)
状況設定は立身流立合目録とほぼ同じですが、川端の状況が加わります。
鐺で撥ねつけ、順手に抜き、斬または突きます。

第五、立身流に於る袈裟斬との関係

一重身とは異なります。
立身流公式ホームページ(立身流の歴史)掲載の、立身流第19代宗家加藤久の試斬の写真をご覧ください。

以上