立身流に於る 桁打、旋打、廻打

立身流第22代宗家 加藤紘
平成25年度立身流秋合宿資料
平成25年10月19日-20日
[平成25年10月9日掲載/平成27年8月31日改訂(禁転載)]

第一、意義

一、古来、立身流修業に入った者は当初の3年間、桁打(けたうち)、旋打(まわしうち)、廻打(まわりうち)のみの稽古を許された。上達してもこれを繰返した。
武道の基礎となる身体を錬成する為の立身流独自の基礎的稽古方法である。
戦前の剣道に於る切り返しに対応する。

二、用具には袋竹刀を使う。立身流袋竹刀には鹿革あるいは牛革を使い、これで丸竹をくるんだものと、これに割竹を詰めてあるものと二種類ある。
丸竹をくるんだ袋竹刀は軽く、また、撓(たわ)みが少ないので技をかけやすく、仕方用(弟子用)とされる。物打部分が割れても厭(いと)わない。
割竹をくるんだ袋竹刀は重く、撓みが強いが、弾(はじ)く力が弱いので相手の手の内などの習得に適しており、受方用(師匠用)とされる。仕方に重量、撓みへの対応を心得させ、かつ、仕方に当たってしまっても被害が少ない。
双方が丸竹の袋竹刀を使用してもよい。

三、桁打等は師と弟子が一組となって行うのが原則である。師と弟子が同じ動作を繰り返し、師の技を弟子に写し込んでいく。

四、桁打等は、休みなく長時間継続し、疲れ果て、足が動かず、手が上がらないようになってからが本当の稽古である。その状態になる迄は準備段階にすぎない。

第二、通則

一、常に姿勢を崩さない。身体の重心は常に両足の間の中央付近にある。

二、全身(特に右手)の力を抜き、大きく、のびやかに、真直ぐに、無理なく動く。

三、
(1)「常の歩み」の足である。
(2)前足は敵に真直ぐ向け、踵を地につける。
(3)後足は自然の方向を向き、踵は浮く。後足膝は突っ張らない程度に伸びる。
(4)受(うけ)、撃(うち)それぞれに右足前の場合と左足前の場合の双方があるのが原則である。

四、体幹はなるべく敵に正対する。

五、撃つ部位は敵の正面。左右の袈裟もあるが、刃筋を通す稽古としては、正面撃が最も良いとされており、正面撃を基本とする。

六、
(1)打った瞬間、右手はのびやかに、右肘を突っ張らない程度に前方ほぼ水平に伸ばす。
(2)袋竹刀は全て旋回させる(強打、豪撃・こわうち)。桁打は左旋回。旋打は左旋回(左圓・ひだりのまるい)と右旋回(右圓・みぎのまるい)の双方がある。

七、向受(むこううけ)と圓受(まるいうけ)は、ただ受けるだけではない。鎬を使って敵の刀を請け流す。

八、受と体さばき
(1)桁打及び次の(2)以外の旋打(いずれも廻打を含む)では、しっかりと請流して撃つ。
(2)旋打の其3と廻打の旋打は
<1>初心者段階ではしっかり請流して撃つ。
<2>熟練者は、敵の太刀筋に応じ、運足により敵の刀をかわす。圓受は補助的になる。

九、運足の足の横幅
廻打及び旋打の其3での体の横へかわす幅は、自分の身幅の半分の距離を原則とする。
正面からまっすぐに撃つ敵の刀を足さばきでかわすにはこれで十分であり、それ以上は不要かつ有害である。
足幅が広すぎると、自らの姿勢が崩れ、隙ができ、その瞬間に撃たれる。居付くことにもなり、動作に時間もかかる。他方、自分からは攻撃できず、受と攻撃を一拍子でできない。

十、呼吸
無声である。
気管、喉、口を限界まで広げ、体内の空気の全てを一瞬に爆発させるように吐き出すと共に撃つ。
その際、「ハッ」という音が出るが、これは声帯を震わせる発声ではなく、空気が爆発的に体外に出る爆発音である。

十一、吐く呼吸に合わせ、受から撃までの一連を、一つの動作で行う。

十二、始める前に必ず間合を確認して双方の足位置を定める。間合は稽古を受ける側の間合とする。

第三、種類

一、桁打  向である。基本方法は、後記の其2、1、(2)。

其1、片足位置を固定する法
1、左足位置を固定させる法
(1)左足前の位置で向受、右足を出して右足前で面撃、右足を退いて向受。
(2)左足後の位置で向受、右足を退いて右足後で面撃、右足を出して向受。

2、右足位置を固定する法
(1)右足前の位置で向受、左足を出して左足前で面撃、左足を退いて向受。
(2)右足後の位置で向受、左足を退いて左足後で面撃、左足をだして向受。

其2、両足で一歩前進と一歩後退を繰り返す法
1、左足前

(1)左足前で向受、右足より一歩退いて面撃、左足より一歩出て向受。
(2)左足前で向受、左足より一歩出て面撃、右足より一歩退いて向受。
これが桁打の基本方法である。

2、右足前
(1)右足前で向受、左足より一歩退いて面撃、右足より一歩出て向受。
(2)右足前で向受、右足より一歩出て面撃、左足より一歩退いて向受。

二、旋打  圓である。基本方法は、後記の其2、2、(2)。

其1、片足位置を固定する法(全てに左旋回と右旋回双方がある)
1、左足位置を固定する法
(1)左足前の位置で圓受、右足を出して右足前で面撃、右足を退いて圓受。

(2)左足後ろの位置で圓受、右足を退いて右足後で面撃、右足を出して圓受。

2、右足位置を固定する法
(1)右足前の位置で圓受、左足を出して左足前で面撃、左足を退いて圓受。
(2)右足後の位置で圓受、左足を退いて左足後で面撃、左足を出して圓受。

其2、両足で一歩前進と一歩後退を繰り返す法(全てに左旋回と右旋回双方がある)
1、左足前
(1)左足前で圓受、右足より一歩退いて面撃、左足より一歩出て圓受。
(2)左足前で圓受、左足より一歩出て面撃、右足より一歩退いて圓受。

2、右足前
(1)右足前で圓受、左足より一歩退いて面撃、右足より一歩出て圓受。
(2)右足前で圓受、右足より一歩出て面撃、左足より一歩退いて圓受。
これが旋打の基本方法である。

其3、左圓と右圓を併せ行う法
1、右前、左前、右後、左後と移動する法
(1)左足前で剣先を左にして圓受
(2)右足を右前方に送り、左足を継いで面撃
(3)足はそのまま剣先を右にして圓受
(4)左足を左前方に送り、右足を継いで面撃
(5)足はそのまま、剣先を左にして圓受
(6)右足を右に開き、左足を右足の左後に継いで面撃
(7)足はそのまま、剣先を右にして圓受
(8)左足を左に開き、右足を左足の右後に継いで面撃

2、左前、右前、左後、右後と移動する法(具体的な動きは1、に準ずる)

三、廻打  向と圓である。双方が地上に円を描く如く動く。

桁打(左廻り)
(1)左足前で向受

(2)左足を左前方に送り、右足を継いで面撃

旋打(其2が基本方法である)
其1、左廻
(1)左足前で剣先を右にして圓受
(2)左足を左前方に送り、右足を継いで面撃

其2、右廻 これが「廻打の旋打」の基本方法である
(1)右足前で剣先を左にして圓受
(2)右足を右前方に送り、左足を継いで面撃


【参考】

一、第22代宗家 加藤紘 論稿 参照
1、「立身流について」
2、「立身流に学ぶ~礼法から術技へ~」
3、「立身流に於る『・・・圓抜者則自之手本柔ニ他之打處強之理・・・』」

一、五之間之事(立身流秘傳之言 安政5年9月 逸見忠蔵筆)
進因間(すすみよるま)
退反間(ひきかえるま)
死間(しのま)
生間(せいのま)
變間(へんのま)
(は赤丸)