立身流第22代宗家 加藤紘
佐倉市文化祭剣道大会講話録
平成23年11月3日
於 佐倉市民体育館
[平成24年3月4日掲載(禁転載)]
この6月の佐倉市民体育大会剣道大会で、佐倉剣道連盟名誉会長安藤平造先生の講演がありました。そのテーマは「師匠を敬え」という内容でした。そこで、立身流で師匠と弟子の関係がどうとらえられているかをみてみます。
まず第1首目、
- 習うへき師には細かに尋ぬへし 問わぬ心はいかて知らせん [立身流居合目録之巻]
師には、どんな細かいことでも尋ねなさい。疑問をもって質問してこなければ教えようがありませんよ」という歌です。
師になる人は誰でもいい訳ではありません。「習うべき師」です。習うに値する師です。真摯な質問には、どんな質問でもこれを正面から受けとめ、わからなければ一緒に考えてくれる師匠、そのような師匠に対して、
第2首目、
- 師の恩を忘る々人は月と日の 光り失ふことくなる遍し [立身流立合目録之巻]
師匠への思を忘れた人は、月光も日光も失ったと同じで、真暗闇の中で、立ちすくむだけですよ、という意味です。昔は、ガス灯も、蛍光灯も、ネオンもLEDもありませんでした。月光と日光だけが頼りでした。
このような師を敬うのは当然の常識です。行儀です。ですが、常識、行儀は忘れやすいものです。では、忘れない為にはどうしたらいいか。
そこで第3首目、
- 己が身を正しくするは行儀なり 人の正しきことにしたがへ [立身流立合目録之巻]
自分の身、からだと心を正しくするのがすなわち行儀だ、というのです。師を敬うということは、行儀、すなわち正しい身の働きの一場面です。
では、自分の身を正しくするにはどうしたらいいのか。
第4首目、
- 十の字を我身の曲尺と心得えて 竪も1なり横も一なり [立身流立合目録之巻]
漢字の十の字のように自分の身体をとる、どこからみても、身体を、竪に真直、横に真直の姿勢をとる、これが自分の身を正しくする方法(曲尺=かね)です。
ここで重要なのは、この竪1横一の姿勢が行儀の面だけでなく、剣道の基本でもあることです。
第5首目、
- 身構は横も一なり竪も1 十の文字こそ曲尺合と知れ [立身流俰極意之巻]
竪1横一の姿勢そのものが身の構えなのです。竪1横一の姿勢で構え、その姿勢のまま打っていくと一本になります。
今日は、自分の姿勢を竪1横一に正しくとることが、師匠を敬うことにつながり、又、剣道の一本につながるという立身流の教えを聞いて頂きました。
本日の試合は、竪1横一の姿勢で構え、打ってください。
終わります。
【参考 立身流歌】
- 問ひ来たる人を粗略にすべからす 誠あらねは朋も信せす [立身流居合目録之巻]
- 下手こそは上手の上の上手なれ 返す返すもそしる事なし [立身流理談之巻]
- 世磐広し折によりても替るへし 我知る計りよしと思ふな [立身流理談之巻]
- 我か術を多くの人のそしるなら 鼻に聞かせてそしられてゐよ [立身流理談之巻]
- 利合をは心に留て尋ねすは 人にほとこす時そかなしき [立身流立合目録之巻]
- 残さしと弟子には云てかくすまし 心のことはなにとはらさん [立身流直之巻]
- いたらぬに免好(ゆるしごのみ)をするひとは 武術の恥や我とかくらん [立身流理談之巻]
- 太刀や抜く人も願の深きゆへに われも極意を伝へうれしき [立身流極意之巻]