立身流第22代宗家 加藤 紘
令和3年(2021年)7月20日 掲載(禁転載)
第一、はじめに
立身流剣術五合形(たつみりゅうけんじゅつごごうのかた・五合之形)及び立身流剣術五合形詰合(つめあい)の、それぞれ一之太刀(いちのたち)から五之太刀(ごのたち)迄の形の内容は拙著「立身流之形 第一巻」に記しました。
本稿は、五合形の体系構成、及び立身流内での体系的位置につきまとめるものです。
第二、五合形と五合形詰合
共に一之太刀から五之太刀まであり、すべて一つの太刀が二本の技で成り立っています。
技の内容は五合形と五合形詰合に違いはありません。
五合形と五合形詰合との違いは、五合形が受方仕方双方とも構えた状態から始まるのに対し、五合形詰合は双方帯刀の状態から始まることにあります。五合形詰合は、一之太刀から五之太刀までの全てにおいて初めの技が受方仕方双方とも抜刀によるもので、次の技は双方とも構から始まります。五合形が一般にいわれる剣術だけなのに対し、五合形詰合は一般に言われる居合から始まり、剣術に移行します。
五合形詰合は、流外からは「組居合」と表現されることも多いのですが、立身流での「組居合」とは、2人以上の人数で他の人の呼吸を探り主に多数人相手に業を錬磨する稽古方法を意味し、五合形詰合や剣術表形提刀などの形を意味しません。
第三、五合形の内容
「立身流之形 第一巻」に記したとおりです。
以下に動きの要約と解説を記します。
1、一之太刀
(動き)
正面を斬ってくる受方に対し、仕方は右へ体をかわしつつ面を斬る。
次に、水月に前突する受方に対し、仕方は右へ体をかわしつつ水月へ表突。
(解説)
受の動きを感知した仕が、その体捌で受を制する形です。
2、二之太刀
(動き)
受方の正面への斬りつけに対し、仕方は同時に深い角度に斬りつけて我刀の左鎬から受方の刀を斬り落とし、そのまま右斜め下に返して逆袈裟に斬る。
さらなる受方の正面への斬りつけに対し、仕方は同時に斬りつけて我刀の左鎬から受方の刀を斬り落とし、そのまま面を斬る。
(解説)
受方の刀の動きとほぼ同時に、仕方は自分の刀で受方の刀に合わせてこれ斬り落とし、そのまま受方を斬る形です。
他流、例えば一刀流(切落・きりおとし)や新陰流(合撃打・がっしうち)等にみられる技と同じ技と理解します。
3、三之太刀
(動き)
受方が仕方の面を斬ろうとする瞬間、仕方はその匂いを感じ機先を制して面を斬る。
次に、受方が仕方の小手を斬ろうとする瞬間、仕方はその匂いを感じ機先を制して小手をきり、即、裏突。
(解説)
立身流の用語で「匂いの先」、一般にいわれる先の技の典型です。
4、四之太刀
(動き)
仕方が受方の刀を萎(なや)し押さえんとするのを、受方が下からはね返し振りかぶって撃たんとする瞬間、仕方は左小手右小手と斬る。
次に、面を斬らんと大きく振りかぶろうとする受方に対し、仕方は瞬間、水月へ前突き。
(解説)
受方の刀の動きが尽きた瞬間に撃突します。
また、萎(なやし)技やこれへの対処、突き技のまとめと言えます。
5、五之太刀
(動き)
仕方は小太刀で太刀に対します。
受方の正面への斬りつけに対し、仕方は退がりつつ右に摺り上げて小手を斬り、更に面を斬る。
次に、右胴を斬る受方の刀を、仕方は腰の位置で剣先を上に立てて受け、水月を突く。
(解説)
小太刀による摺上からの小手面の二段撃と、かわしにくい右胴撃への受突です。小手面の二段撃は圓での基本の撃突です。
詰合での仕方は小太刀の居合から始まります。
第四、五合之形の体系
1、敵の動きと我の動きを刀の動きからみた場合
①敵の刀が早く、我の刀が遅い。
②敵の刀と我の刀が同時。
③敵の刀が遅く、我の刀が早い。
の三種の場合以外ありえません、
これと一之太刀から三之太刀までを対応させると
一之太刀は①の場合
二之太刀は②の場合
三之太刀は③の場合
となります。
その全ての動きは、刀術のみならず俰を含む他の武器武技全てに通ずる具体的な技として示されています。
2、四之太刀は、敵の刀と我の刀との関係でなく、受方の刀の動きそのものに着眼します。受方の刀の動きが完成し止まる一瞬前の、まだ動いている最中をとらえて撃突します。
萎や突も、他の武器武技全てに通じます。
萎は鎗、長刀、棒など、長く重い武器に対して多用される技です。
突については、一之太刀に前突と表突、四之太刀に裏突、五之太刀に前突が示されています。
3、五之太刀
立身流剣術陰之形は小太刀の入身(いりみ)から始まりますが、ここでは太刀の先攻から始まります。
小太刀による間合をとりつつの摺上は、逆に間合を詰めつつ行えば「妙剣」(「立身流之形第二巻75頁」となります。双方に小太刀の居合も含まれます。
膝への攻撃への小太刀による受は陰之形(「立身流之形 第一巻」に掲載)「左入身」に出てきます。
また、鎗術小太刀合を参照してください。
4、三之太刀での「匂いの先」との関係で、先、後の先、先先の先については第21代宗家加藤髙の論考「気攻め、術攻めで敵を守勢に立たしめる」「以先戒為宝」(共に拙著「立身流之形第二巻」146頁以下、宗家論考所収)を参照してください。
第五、立身流全体の中での体系的意味
1、五合形の前提
立身流全体が向圓の理念の下にあるのですが、五合形は、直接的には立身流剣術表形および立身流剣術陰形を前提とし、これらを習得の後にこれらと総合して修練されます。
表形については、その破の形を例として拙稿『立身流剣術表之形破と「手本柔」(立身流變働之巻)』に記しました。その中での記載や、拙稿「立身流と剣道・居合道・杖道」で五合形との関係に触れましたので参照してください。
2、五合形の展開
以上のとおり、五合形の體用技法は、刀のみならず俰を含む他の武技武器全てに連なる具体的内容として示されています。
五之太刀は、小太刀としての立身流剣術陰形を追補集大成し、対長物武器などへの更なる発展へと繋げるものです。
武器を手にしなくても、また、刀以外の武器を手にしたとしても、すぐに応用しうる技が五合形です。
具体例としては、拙稿「立身流と剣道・居合道・杖道」を参照してください。
以上