立身流に於る「心の術」

立身流第22代宗家 加藤紘
佐倉市文化祭剣道大会講話録
平成24年11月3日
於 佐倉市民体育館
[平成25年3月23日掲載(禁転載)]

今年六月の佐倉市民体育大会剣道大会で、佐倉剣道連盟名誉会長安藤平造先生の講話がございました。宮本武蔵の「兵法三十五箇条」の「心持之事」を引用してのお話でした。

この兵法三十五箇条は、立身流が創流されてから、百数十年後に書かれたものです。

「心持之事」を立身流の言葉でいうと、「心の術」の問題となります。

これは、立身流の500年の歴史の相当部分、少なくも半分の250年以上がその研究に費やされていると言っても過言でない、大問題です。これを短時間でふれることは不可能ですが、関係する立身流の歌を何首かあげ、端緒を探ってみます。

まず、武道では心の持ち方が一番重要なのだという歌です。

  • いかほどに道具や業や有りとても 心の術にまさるべきかな [立身流居合目録之巻]

たとえば、実戦での心得として、二首目、

  • 兎や角と おもう心のうたがひに 我身の勝を敵にとらるる [立身流居合目録之巻]

あれやこれや思い疑っていると、勝てる勝負にも負けてしますよ、ということです。

そしてフェイントをかける敵や、だましてくる敵に乗せられない為には、これに動じない、常の心で、稽古のときと同じ動きをすればよいのです。

それが三首目、

  • 突か打 だますは敵の得手としれ おもわぬ外は常の働き [立身流立合目録之巻]

この「常の働き」が可能となる為の心と身体の状態を立身流では「空(くう)」といいます。

  • 人も空 打るる我も空なれば 打つ手も空よ 打つ太刀も空 [立身流理談之巻]

本日これからの試合に即して簡単にいってしまいますと、「全てを忘れなさい。頭の中を「から」にしなさい。そして、気持と身体を充実させなさい。」ということになるでしょう。

これは、いつも皆さんが教えられていることだと思います。

今日は、先生方のいつもの教え通り、すべてを忘れ、しかも充実した気持と充実した身体で試合してください。

終わります。

【参考】

  1. 立身流第21代宗家 加藤高 論稿「以先戒為寶」
  2. 拙稿「立身流について」 (七戒、半月、満月等)
  3. 「深夜聞霜」 (立身流居合目録之巻)
  4. 立身流歌
  • 一方に思ひつもるは邪心なり かたよらざるを本(もと)の気と知れ [立身流理談之巻]
  • つり合は 張弓弦と心得て 本の心を引かずゆるさず [立身流居合目録之巻]
  • 心をば直なる物を心得て しめゆるめなば曲るとぞしれ [立身流居合目録之巻]
  • 心をば曲れるものと心得て 常の常にも正直(せいちょく)にせよ [立身流居合目録之巻]
  • 心をば身のあるじとぞ聞くなれば 放たれたるを尋ね求めよ [立身流理談之巻]
  • 本の気に こころを当て尋ねずば 直な心にもどるまじきぞ [立身流居合目録之巻]
  • 敵を見て心の月に雲あらば 死出の旅路の道に迷はむ [立身流理談之巻]
  • 切るとなく 切らぬともなきこの刀 きるとは更に思はざりけり [立身流理談之巻]
  • 敵もなく我もなきこそこの勝身 とる敵もなく とる人もなし [立身流俰極意之巻]
2013年 | カテゴリー : 宗家講話 | 投稿者 : 立身流総本部