居合刀の拵、元結切り、大豆切り、小豆切り、篠竹切り

立身流第十九代宗家 加藤久 遺稿
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立身流第十九代宗家 加藤久

一. 昔の居合刀

作りは質素で丈夫と安全とに意を用ひました。堀田正睦公の用刀でさへ銅作り(尤普通の銅では無いさうです)です。握りは栗形の下までも一帯に飾りなく厚板で巻き栗形までも被ってあります。握内の刃部の木質の損ぜぬ様に口金に接して細幅の銅板を曲下して一つには安全を期したそうです。刃で鯉口を斬る事は禁物ですが抜くにも納めるにも摺れあふ音のしますのは意に介しませんでした。半澤先生の居合刀は空鞘のかかりました総てが至って粗末な物、逸見忠蔵先生の弟脇谷啓之助先生はやはり名人と稱されました。 居合刀は四寸餘と覚しく幅廣の大分重いものを用ひられました。

一. 元結切り

どんな場合にも抜損じの無き様に正しき抜方と抜く力をつける為に練習しました.まづ鍔の小柄穴から栗形の穴へ通して良質の元結を結びて抜きながら引き切ります。二本なら廻して結へるので四本になります。漸次数を増して五本にも至ります。普通の栗形ではもぎとれてしまひます。握りの銅板を打ち出して栗形を被ひます。細工は困難ですから鉄の胴輪へ仝じ栗形をとり付けてはめ込みました。柄を胸に近くして右手で引き抜く力と左手を強く握りつつ押す力との一致がなくては四、五本に及びますと仲々切れません。

一. 大豆切り

切臺の上へ大豆を一粒づつのせて抜き打ちに切ります。体の備へと共にぢっと見詰めました時に定まります。抜いてからねらっても及びません。あまり強く切付けますとくるひ勝ちです。長大な刀では幾分困難の様です。切損じて心の平静を欠いては最早いけません。もう切れません。何も豆のような小さな物を切る必要は無いわけですが刀は眼でねらって切るものでは無いといふ事を知らしめると共に心を修めさせるためでせう。私は苛って切り付けて刀をいため、刀をすて居合もやめようなどゝ其際は思ひました。

一. 小豆切り

大豆が十に七、八の修練に達しますと小豆を切る事に移ります。

一. 篠竹割り

篠竹を地上に立てて抜き打ちに割りさく、指ほどのものでもさくっと下まではむつかしく思はれました。古人はこれをさっと割りましたでせうか。

2013年 | カテゴリー : 宗家論考 | 投稿者 : 立身流総本部