立身流に於る 足蹈と刀の指様

立身流第22代宗家 加藤紘
平成27年8月2日(日)
立身流特別講習会資料
[平成27年1月21日掲載/平成27年8月19日改訂(禁転載)]

第一、立身流序之巻より

一、立身流序之巻の中に次の記載があります。1590年代に分流した立身新流抜合(いあい)序之軸にも同一の文章が含まれています。

「夫 為武之備 有干戈 有戟杖 為其器也 転多 為其利也 又不少 雖然 何 有以帯腰之利剣者乎 為其干戈戟杖者 不軍卒闘戦之砌諸侯行路之次 則 其外 多 是 可用之歟 正 是 為此利刀具也 二六時中 不可離身之者也・・・」

「それ ぶのそなえたるや、かんかあり げきじょうあり。そのきたるや、うたた おおし。その りたるや、また すくなからず。しかりといえども、 なんぞ たいようのりけんにしくものあらんか。そのかんかげきじょうたるは、 ぐんそつとうせんのみぎりしょこうこうろのじならざれば、すなわち そのほか おおく これ これをもちうべきか。まさに これ このりをなすや とうぐなり。にろくじちゅう みをはなすべからざるのものなり。・・・」

二、帯腰の利剣は、社会生活日常生活で身から離しません。

屋外では常に大刀を帯刀し、歩くとき走るときも腰にあります。脇差を腰にし、時には短刀をも腰にします。
刀術、特に居合は、戦場だけでなく日常生活での歩みや走りを前提にしています(拙稿「立身流に学ぶ ~礼法から術技へ~ (国際武道文化セミナー講義録)」第五、足蹈(実演)参照)。
戦場でも歩くか騎馬です。
居合は、普通に歩きながら抜いて請流します。あるいは普通に走ってきて抜いて斬ります。
事前に刀を抜く余裕がある場合は、刀を抜いておいて剣術に入ればいいのでして、それが原則です(後記参考1、参照)。

第二、足蹈 (あしぶみ)

一、立身流に於る歩み(足蹈)の重要性
立身流では、歩み方(走り方を含む)が一番むつかしいといわれてきました。
武道での歩みには厳しい稽古と鍛錬による技術の習得が必要です。
前掲拙稿にも示した立身流道歌を記します。

  • 足蹈は大方物の始めにて いえの土台の曲尺と知るへし [立身流俰極意之巻]
  • 行水の淀まぬ程をみても猶 わが足蹈をおもいあはせよ [立身流立合目録之巻]
  • 敵は波 我は浮きたる水鳥の 馴れてなれぬる足蹈をしれ [立身流立合目録之巻]
  • 足蹈は常の歩みの如くして おくれし足はかかと浮へよ [立身流歌]

常の歩みといっても、個人の癖や身体状況精神状況を含んだ、その個人個人のあるがままの歩きがそのまま良いものなのではありません。その個人にとって一番楽な歩き方が武道においての常の歩みではありません。
「常の歩みの如くして」なのです。

二、宮本武蔵の足蹈
加藤髙先代宗家は宮本武蔵を尊敬していました。
平常の動作を追及するなど、立身流の認識や感覚と共通するところが多く、説く内容に似るところが多い故かと思われます。
その宮本武蔵が足蹈についても立身流と同様の表現をしています。

「一 足つかひの事
足の はこひやうの事 つまさきを少うけて きひすをつよくふむへし 足つかいは ことによりて大小遅速はありとも 常にあゆむかことし」

「一 他流に足つかひ有事
我兵法におゐて 足に替わる事なし 常の道をあゆむかことし」
(以上、五輪書)

「一 足ふみの事
足つかい時々により 大小遅速は有れ共 常にあゆむかことし」
(兵法三十五箇条)

武蔵は五輪書に「常にも 兵法の時にも 少も かはらすして」と述べ、同趣旨の言葉を随所にちりばめています。そして例えば「常の心」が単にその人の平常の気持を意味するのではないのと同じく、「常にあゆむがことし」というのは、その人の普段の歩き方そのものが良いのだ、と述べているわけではありません。

三、常の歩みの内容
武道としての常の歩みはただ歩けばいいというものではありません。
前掲拙稿から引用します。

「立姿から、眼に見えない程少々重心が前に移り、足がこれについてきて、歩み始めます。両足はなるべく平行となります(甲冑を着用しているときはやや異なる)。また、無理に足を上げません。後の足の踵は歩むとき軽く浮きます。」
「身体の上下動、左右動、前後の揺れ、身体の捻じれ等がない自然の歩み、常の歩みをします。竪Ⅰ横一を歩みや走りでも維持するのです。左への転回、右への転回、左回り後への転回、右回り後への転回、四方への転回等でも同様です。更に後進、左への後進、右への後進、左回り後進、右回り後進等でも同様です。」

腰と肩、頭がよどみなく一定速度で前進します。

そのためには、膝が曲らず、突っ張らない程度に軽く緩み、しかも弾力性をもっていることが必要です。
両足裏は地面からなるべく離れず、又、なるべく地面と平行して動きます。後足の踵は、足が地面を離れる前に軽く浮きますが、その浮く程度を大きくしません。
なるべく大地と足裏との距離をとらず、大地を介しての我身の自由な動きの可能性を保持します。
後足は腰の下から振られていくような感覚で前へ移動します。そして地面に接触する瞬間に踵(かかと)を主とする足裏全体で、力むことなく強く蹈みます。
地面に平行に着地し、かつ力みの入っていない足の爪先裏は自然に浮き加減となります。
泥土など滑るところでは逆に足指で地を摑むようにします。

これは、刀を腰に帯びて歩くのに適した歩き方でもあります。

道を普通に歩くとき、腰を大きく落としたり、膝を曲げたり、常に踵を地に着けていたりしません。
一歩ずつ右半身と左半身を繰返すものでもありません。
強い蟹股足をとるわけでもありません。
足裏を地面につけたままでの摺り足で道をあるくことは普通ありません。
棒立ちになったり、後ろ足の踵が極端に上がったりしません。
居着きません。

四、常の歩みと刀術特に居合との関係
居合は歩きます。歩きに歩いて、その歩きの中の一瞬に抜刀します。
その武道的な常の歩みにも、後足の踵が全く浮かない歩みはありません。武道としての走りにも、後足の踵が浮かない走りはありません。
このような歩み、走りにのるのですから、刀術とくに居合は、後足の踵が軽く浮いたまま請流し、後足の踵が軽く浮いたまま斬りつけ、斬るのが原則です。そして打突の後も常の歩み、常の走りです。
勿論、重い甲冑着用の場合には様相が異なることは前掲拙稿記載のとおりです(後記参考2参照)。
ただ、甲冑着用の場合の足蹈の為に、特別の厳しい稽古を必要とするわけではありません。着用そのものに慣れれば、着用した状況に適合した歩みになります。

武道としての歩みと日常生活社会生活での歩みは一致するのが理想です。しかし、屋内では可能としても、履物なども異なる現代にこれを完全に求めるのは無理があるでしょう。

五、「蹈足 (ふみあし)
立身流居合の立合表序には、(足蹈でなく)「蹈足(ふみあし)」と称される独特の動作があります。
これは、前述した「常の歩み」を身につけるための基本的稽古方法です。
特に、常の歩みの延長上にある斬撃突での、前に進む足の足蹈の強さと速さの習得を目的とします。
右足を蹈みますが、右足の蹈足ができれば左足の蹈足もできるようになります。

竪Ⅰ横一を崩さずに、常の歩みの歩幅で、進める足を上げずに重心移動をし、力むことなく、大地を踏み抜くような強さ、早さ、確実さのある足蹈を得る稽古です。
足の裏全体で蹈みますが、特に踵を床が抜けるほどに強く打ちつけます。
木の床の上では、大きな、澄んで張りのある、心地よい音が響きわたります。
蹈む足をもち上げ、わざと大きな音をたてては絶対にいけません。
踏みつけてはいけません。
「蹈足」であって「踏足」ではないのです。

蹈足ができれば、無音の足蹈でも、歩幅の広い足蹈でも、強く、速く、確実に足を蹈み、安定した姿勢のまま重心移動することができるようになります。ひいては、姿勢を崩さずして敵の太刀筋を避けつつ斬撃突を強く速く確実にすることが可能になります。
たとえば、蹈足に正確な手の伸びが加わるだけで、本当の突ができるようになります。

この点については、別稿の「立身流に於る「躰用者則刀抜出体」と「蹈足」」で触れる予定です。

六、参考に、立身流刀術での走る形をあげてみます。
(1)居合の立合での前後。
(2)剣術表之形の破の張。
走りつつ八相から中段に変化します。
(3)剣術表之形の急。
勿論、受方仕方ともに居合である7本目の提刀向、8本目の提刀圓を含みます。提刀では擁刀して走ります。
提刀以外では構えたまま走り、あるいは走りつつ構が変化します。

七、ちなみに、立身流で敵の足を斬る形をあげてみます。
(1)剣術表之形の大(体)斜
刀の長さに応じて腰を落とし敵の右膝を斬ります。
状況により折敷くこともあります。
(2)長刀
半円を描くごとくして、敵の右足脛(すね)を、その外側あるいは内側から斬ります。

第三、刀の指様

一、概要
1、帯腰の位置など刀の指様(さしよう。立身流では「差」でなく「指」の字を通常用います。)は日常生活での歩きや走りに沿ったものでなければなりません。

2、大刀、脇差、短刀の帯への指方(さしかた)は、拙稿「立身流に学ぶ ~礼法から術技へ~ (国際武道文化セミナー講義録) 第三、礼 7、提刀、帯刀(実演)」で触れたとおりです。刀をどこに指すかについては拙稿「立身流に於る 下緒の取扱」の「参考2、「立身流聞書」(第21代宗家 加藤高筆)より引用」を参照してください。
そして、大刀は傾斜を持って帯刀し、脇差は水平に近く指します。したがって大刀の柄頭の高さは脇差の柄頭より高くなります。大刀の柄頭が身体のほぼ正中線上、脇差は鍔が身体のほぼ正中線上です。

二、大刀の指様
指様で重要なのは、大刀についてです。

1、大刀は左腰骨に乗せます。左腰骨には大刀の重心付近が乗るようにします。刀が一番安定し、長距離の歩き、長時間の走りに耐えられる指方です。
体格や大刀あるいは帯などにもよりますが、結果的に、柄頭が体の正中線上付近にくるのが、一番大刀が安定する状態といえます。
大刀と地面との角度は自然に定まりますが、これも体格や大刀、鞘、帯、脇差その他の着装、その場の状況あるいはその人の好みにもより様々です。
後述する落指のように極端でそのために特殊な抜き方が必要、というようなことがなければいいのです。

2、大刀を腰骨に乗せない指様はいけません。
ところが大刀を腰骨に乗せず、腰骨下の左腰部あるいは左脇腹部に大刀を当て、帯だけで大刀を支えている人がいます。軽い鞘付木刀や模擬刀を使用する初心者に多いのですが、相当の経験者にもみられます。
刀は、現今のように、稽古で刀を抜く時だけに刀を腰にするのではありません。逆に刀を腰にしても抜かないのが当り前なのです。
腰の刀から手を離し、長距離長時間を二キログラム弱の真刀を腰にして、できれば脇差、短刀も差して歩いてみてください。腰骨に乗せるのと乗せないのとの違いがよくわかります。

3、この通常の指様について立身流では特に名称はありません。当り前の、当然の指様で、言うならば単なる「刀指様」「太刀指様」です。

三、落指 (おとしざし)
これに対し、通常は行わない異形(いぎょう)の指(し)方があります。
その一つが落指(おとしざし)です。特異の状況下でその時だけなされる普通ではない指方なので、その特徴を示す名称がついています。

1、落指とは、文字通り大刀をほぼ垂直に、刀を鐺から下に落すような指し方です。
大刀は腰骨上でなく左脇腹部に帯だけで支えられるのが通常です。あるいは腰骨の脇か後で鐺から落す形になります。
栗形を帯にかけて刀が落ちないように支えます。
鍔が邪魔になりがちで、普通には用いない指様です。
下緒は、右前の袴紐に挟んだりしない場合は、栗形からそのまま下がることになります。

2、落指の目的には二つあります。
一つは人混みを歩くとき他の人の邪魔にならないように、他の人と接触しないようにするためです。
もう一つは指している大刀を目立たないようにするためです。
ですから、大刀は、前から見ても横から見ても身幅からなるべくはみ出ないようにします。
公用外の日常は羽織を着て大刀は羽織に覆われることになります。
そして、歩いたり立ったりしているとき、左掌は鞘のあたりにあることになります。

四、落指の抜刀 (後記参考3、参照)
落指のままでの抜き方は、落指に適応した抜き方をします。
落指での抜刀につき、立身流立合目録之巻 外(そと)より二ヶ条をあげたうえ、「立身流刀術極意集」の「立身流傳授」中「立合目録之分」の「巻物固條之分」から一部引用します。

落指抜様之事 (おとしざし ぬきようのこと)
是ハ人込(ひとごみ)又ハ平日共ニ人ノ目ニツカザルヨウニコジリノ方ヲ以(もっ)テ抜キ出シテ抜也

同(落指)鞘共氣不付様抜出様之事 (どう さやとも きづかざるよう ぬきだしようのこと)
是ハ羽織之上亦ハ帯ノ上ヨリ鞘ヲヲサエテ抜也

五、閂差 (かんぬきざし)
異形の指方の一つに閂差といわれるものがあります。

1、閂とは「門戸をさしかためるための横木。門扉の左右にある金具に差し通してもちいる。」(広辞苑)
刀を水平にし、刀の中央部を腰骨に乗せ、柄頭と鐺を前後に真直ぐにする差し方です。刀の重心を腰骨の帯部より前にして刀を水平にするバランスをとります。
落指も閂差も極端で通常はしない指方です。
落指では刀が地面に垂直になるのに対し、閂差は刀が地面に水平に、かつ刀の中央が腰にあたる恰好が、閂の中央が門の中央になるのに似たための名称といえます。

2、立身流には閂指という名称の指方はありませんし、そのような指方をする場合も想定しません。勿論、太刀を佩(は)くのは別論です。
閂差は見栄えを目的とした指方で、立身流ではその実用性や必要性はないとみています。したがって、落指と異なり、「閂指抜様之事」というようなものもありませんし、必要もありません。閂指をしていても通常の抜刀に支障はありません。

第四、参考

1、立身流變働之巻より
先圓 (せんのまるい)

立身流刀術極意集より

先圓  是ハ敵打タサル前ニヌキ放シ敵打掛(うちかかり)候ハゝ
ハリニテ敵太刀ニノリ行突ク也又圓ニテ打突クモアリ

立身流第19代宗家加藤久ノートより

先圓  先ニヌキ ツキ 又 ウツ

2、立身流着具之次第 (立身流秘傳之書)

3、立身流立合目録之巻 外
には、他に

  • 急被掛勝様之事 (きゅうにかかられ かちようのこと)
  • 同闇夜之事 (どう やみよのこと)
  • 人込刀抜様之事 (ひとごみ かたな ぬきようのこと)
  • 介錯仕様之事 (かいしゃく しようのこと)
    (切腹の作法については「立見流切腹之式法」 (嘉永6年7月 牧野貞光 京都大学法学部図書室 小早川文庫)参照)
  • 細道抜様之事 (ほそみち ぬきようのこと)

などもあります。

以上

立身流に学ぶ ~礼法から術技へ~ (国際武道文化セミナー講義録)

第23回国際武道文化セミナー講義録(平成23年3月7日)

立身流第22代宗家 加藤紘
主催: 財団法人日本武道館
後援: 文部科学省 日本武道協議会
協力: 国際武道大学
通訳者: アレキサンダー・ベネット
[平成23年11月12日掲載/令和3年8月20日改訂(禁転載)]

第一、はじめに

立身流での演武や稽古は、流祖神妻山大明神や、稽古相手への礼から始まります。
神との一体化を目指し、稽古相手への敬意の念を表します。その為には、先ず、自分の心身を正しくしなければいけません。その正しい心身がそのまま、武術の基本です。

  • 己が身を正しくするは行儀也 人の正しきことにしたかへ [立身流立合目録之巻]

第二、姿勢

1、姿勢について
自らの身を正しくする第一歩は姿勢です。これが武術の出発点でもあります。

  • 我が体は曲がれるものと心得て 人の形に気をつけて志礼 [立身流俰極意之巻]
  • 十の字を我か身の曲尺と心得て竪も1なり横も一なり [立身流立合目録之巻]

曲尺(かね)とは法則の意味です。身体は、どこからみても、竪に真直、横に真直でなければいけません。竪1横一です。その姿は、杉の木が天に向かって伸びていく姿にも例えられています。

  • 思ひなく巧むことなくするすると身は若杉の立てる姿に [立身流歌]

2、立姿(実演)
力を抜き、身体の弾力性を保ち、足巾は狭くして何度か飛びはねた後の巾、足の重心は指の後ろ辺り、関節は突張らない程度に伸び、肱は体側に軽く接するか瞬時に接する事が出来るようにします(肱の逆をとられない)。手の指同士も同様です(同)。力を抜くのも、瞬時に変に応ずることができるようにするためです。

3、正座(実演)
力を抜き、両腿を拳一つ分位あけ、足の親指は重なるか接します。手は力を抜いたまま、股上に持ってきます。肩から下の腕の重心の影響で上腕部は垂直でなく、肘は少々後寄りの体側に位置し、手の平はほぼ大腿元にきて、両手首が両脇腹に軽く接するごとくになります。その他の肱、指は前同様です。肱を張ってはいけません。腕を組むのもいけません。立身流では腕を組むことを「腕あぐら」といいます。

第三、礼

1、礼について
礼は頭を下げるのではありません。腰を屈します。他は立った姿勢のままです。視線は顔の動きのままに動きます。

2、礼の動作
ここで初めて動作に入ることになります。もう、武術動作の段階に入っています。動作で重要なのは、呼吸との一致です。息を吐きながら屈体し、一呼吸置き、息を吸いながら上体を戻します。また、一拳動の中での序・破・急(冴え)が重要です。その為には力を抜いて弾力性を持った身体を作る必要があります。

3、立礼(実演)
力を入れない為、手が前方よりに下がりますので、そのまま軽く身体に寄せます。

4、坐り方(実演)
上半身直立したまま、両膝を同時につき、いつ停まったかわからない程静かに腰をおろします。

5、坐礼(実演)
腰が屈する時に身体につられて両手が前に出て床に着き、両手の人さし指先を接触させ、無理がなければ両手の親指先も接触させます。しかし、右手左手それぞれの人さし指と親指の間は開けません。両手の人さし指と親指先で小さく正三角形に近い形が描かれることになります。その位置は下げた顔のほぼ中央部にきます。上体は、ほぼ水平になるようにします。礼のとき、視線が顔と共に動くのは同様です。

6、立ち方(実演)
腰を上げ両膝をつくと同時に両足指を立てて活かし、上半身直立のまま立ち上ります。反動をつけてはいけません。膝が床につく時、足指が活きていることが、武術では必要です。

7、提刀、帯刀(実演)
立っているとき、刀は右手で、肱を張らず、指に力を入れずに栗形の辺りを掌、指でくるむように提げます。自然に刃が上になります。踵をやや開いた自然体です。下緒は三折りにして一緒に持ちます。

立礼の際、刀が上下に動いてはいけません。 刀が動くのは余計な力が入っているか、固まってしまっている為です。
坐礼の際、刀は右側に、刃を内側にして、鍔が膝頭に来るように静かに置きます。

立っての帯刀は、右足を少々前へ出すと同時に右人差指を鍔にかけながら右手も前に水平に出して半身となり、左手を補助として左腰の帯に鐺を差込み、滞らない動きで差し、刀身の三分の一位が後ろへ出たとき左手を鞘に添え、柄頭が身体の中央にくるようにします。大刀は左腰骨の上に乗せるようにして落着かせます。帯は大刀を腰骨上に乗せやすい位置に締めることになります。左手人差指を鍔にかけ、下緒を刀の後に垂らすか、袴の右前の紐に挟みます。右手を下げると同時に左足を右足に寄せ、最後に左手を下ろします。

冴えのある動きや、手の内、体勢など、武術の基本通りの動きになっている必要があります。動きは体幹側から始まり指先まで連動します。

第四、構

1、構について
立身流では、正しい姿勢をとることがすなわち、基本の構です。

  • 身構は横も一なり竪も1 十の文字こそ曲尺合としれ [立身流俰極意之巻]

2、構の動作
立身流俰目録第四十二条の「身構之事」では次のように説かれます(実演)。

前:
左足を約半歩(概ね肩巾)側方に開き、足先の方向を自然に保つ。膝を軽く伸ばし、上体は垂直にして腰の上に落着け、下腹部に力を溜め精神を平静にし、眼を敵に注ぐ。

左(表):
左足を半歩前方へ出し、その足尖を正面に向け、右足尖を自然の方向に向けて踵を僅かに上げ、上体は自然の方向を保ち腰の上に落着け、下腹部に力を溜め、精神を平静にし、眼を敵に注ぐ。

左(陰):
両肱を張ることなく、左拳を左肩の前方に出し、その肱を僅かに屈し、敵の顎に向く如くし、右拳は我みぞおちまたは顎の前方7~8寸に位置せしめ、両拳は軽く握り、掌を内側方に向かわしむ。

右(表・陰):
右(表・陰)も同様です。

3、刀術 中段の構(実演)
立身流刀術の構は中段が基本です。居合でも剣術でも必ず最後に中段に戻します。
上記身構之事をふまえ、その人の体格にもよりますが、左拳が身体の中央部に位置します。それに従い、身体全体も修正されます。

  • 居合とは俰の上に居合あり 居合のうちに俰あるなり [立身流居合目録之巻]

第五、足蹈(実演)

足の蹈み方には、大きくわけて、歩んだり走ったりする場合(方向転換を含む)と斬撃する場合とに分かれます。
立姿から、眼に見えない程少々重心が前に移り、足がこれについてきて、歩み始めます。両足は成可く平行となります(甲冑を着用しているときはやや異なる)。また、無理に足を上げません。後の足の踵は歩むとき軽く浮きます。

  • 足蹈は常の歩みの如くして おくれし足はかかと浮へよ [立身流歌]

身体の上下動、左右動、前後の揺れ、身体の捻じれ等がない自然の歩み、常の歩みをします。竪1横一を歩みや走りでも維持するのです。左への転回、右への転回、左回り後への転回、右回り後への転回、四方への転回等でも同様です。更に後進、左への後進、右への後進、左回り後進、右回り後進等でも同様です。

  • 行水の淀まぬ程をみても猶 わが足蹈をおもいあはせよ [立身流立合目録之巻]

居合や剣術は、この歩みあるいは走りの上に乗っています。

  • 敵は波 我は浮きたる水鳥の 馴れてなれぬる足蹈をしれ [立身流立合目録之巻]
  • 足蹈は大方物の始めにて いえの土台の曲尺と知るへし [立身流俰極意之巻]

第六、発声(実演)

通常の呼吸から始まり、次の段階を経ます。

1、桁打、旋打、廻打の発声(無声)

2.序之形の発声

(受方)イャイ~~~~~イャイー
(仕方)イェイ~~~~~イェイー

3、破之形の発声(居合の数抜も同様)

(受方)ヤーー
(仕方)エーイ

4、急之形の発声

(受方)イャイーー
(仕方)イェイーー

5、無声(居合)
「無声は有声に勝る」といわれます。有声を経た上での無声のことです。上記1、の無声とは異なる無声です。

第七、斬撃打突(実演、上段よりの斬、居合の円)

竪1横一を崩さず、斬撃打突します。斬撃の後も体を崩しません。
立身流では、身体の安定、大きく冴えのある動きを重視し、これが美しさを伴うことになります。大きな動き方が身につけば、同じ動き方を小さくすることもできますが、小さい動き方ができたからといって大きい動き方までできるものではありません。


【参考】 立身流歌

  • 息合を水入筒と打ちかへて 腰に附希へきものにそありける [立身流居合目録之巻]
  • 餘り身に過たる業を好ますに 進み退く事を覚えよ [立身流立合目録之巻]
  • 本の身は行くも留るもひくは猶 心にまかせ叶ふ身としれ [立身流直之巻]

以上