立身流に於る独稽古 ~再び立身流門へ

立身流第22代宗家 加藤 紘
令和2年(2020年)5月10日 掲載(禁転載)

新型コロナウィルスの世界席捲が続いています。
以下、主に初心者向けに記します。

第一、目標

最終目標は「我心體自由自在(わがしんたいじゆうじざい 立身流秘傳之書)」です(なお、立身流第19代宗家 加藤 久 論考「居合術の目的と其の修行」を参照)。ここに達すれば「心目體用一致」(拙稿「立身流に於る「…圓抜者則自之手本柔ニ他之打處強之理・・・」」参照)が実現できます。
しかし、だからといって先走り、特殊状況を設定し敵の攻撃変化を種々想定してこれに対応する方法を研究するようなことはしてはいけません(拙稿「立身流に於る形・向・圓・一心圓光剣・目録「外」(いわゆる「とのもの」の意味)参照)。個癖を増やして定着させるだけです。いたずら、遊び、としてたまに楽しんでみるだけならいいかもしれませんが、稽古してはいけません。稽古はあくまでも基本を求めてください。
後掲の道歌中にある「工夫」の意味や対象を取り違えてはいけません。その前に「数を抜いても」とあるとおり、数抜についての、ということは向圓での動きについての工夫を本来は求めているのがこの歌です。

第二、立身流での独稽古についてまとめてみます

一、主な項目
立身流の内容は全て独習可能です。普段も各自が行っているはずのものですから、その延長と考えてもらえれば十分です。
次に主な項目を挙げてみます。

(一)居合
既に示し、後記にもある「日々夜々に~」の歌のとおりです。

(二)数抜 (かずぬき)
居合立合表破の向と圓を交互に抜きます。
前に歩きつつ抜刀し斬ります。
後へ退きさがり歩きつつ納刀し、元の位置に戻ります。
発声は、抜刀しつつ「ヤー」、斬りおろしつつ「エーイ」です。
拙稿「立身流に於る形・向・圓・傳技・一心圓光剣・目録「外(いわゆる「とのもの」)の意味」を参照してください。

(三)礼法
拙稿「立身流に学ぶ~礼法から術技へ~」記載のとおりです。

(四)観取稽古
拙稿「立身流に於る「観取稽古」」記載のとおりです。
動画や写真を研究して観取ることもできます。
私の動画などを利用し、真似をしてはならない点等を含め、研究してください。

(五)足蹈 (あしぶみ)
拙稿「立身流に於る足蹈と刀の指様」及び「立身流剣術表(之形)に於る足どり」記載のとおりです。 

(六)各種形や桁打・旋打・廻打
剣術、鎗、棒など各種形や拙稿「立身流に於る桁打、旋打、廻打」記載の受方仕方を別けての一人稽古。また各種目の基本稽古。

二、注意
独稽古を長期間続けていると、必ず個癖が生じます。
個癖が拗れて修復不可能となる前に師匠の指導を受けて矯正してください。

第三、独稽古の方法の工夫

各人の修行程度に応じた工夫を、各人それぞれがしてください。

一、本身を使うのが無理ならば模擬刀を、これも無理ならば木刀を、大刀が無理ならば小刀を、これも無理ならば扇子を、扇子もなけば何も持たずに。腰の動きに特に留意すること。
長物や俰も。俰の受身や体捌。

二、そして例えば、一日一度は刀を抜く。抜かなくとも,柄を握る。木刀、撓の柄を握る。握らなくとも触る。触らなくとも握った手をつくってみる。イメージ・トレーニングをする。

三、日常生活での動きを武道の動きとする。例えば立った姿勢、座った姿勢、歩き、手の内。

第四、

私にも、長期間稽古の時間が取れず、所謂イメージ・トレーニングだけですごした時期があります。そのとき、伯父の加藤貞雄第20代宗家や長野弘師範から「久しぶりに見たら、稽古の機会がなかったのに、強い思いだけでとてもよくなった。」と同じようなほめかたをされ、うれしかった経験があります。
皆さんも一日一度は立身流を想ってみてください。それだけでも上達します。

第五、

令和2(2020)年3月24日に示した4首の立身流道歌を、クレール・シモン立身流フランス支部長がフランス語に訳し、支部員に伝えました。これを次に掲げます。
哲学者のクレール氏(上傳・直之巻迄の5巻允許)は、夫君の人類学者ピエール・シモン氏(上傳・変働之巻迄の6巻允許、平成26(2015)年5月3日逝去)と共に先代高宗家以来の流門であり、ピエール氏の設立した支部を引き継いで頑張っています。

立身流歌、フランス語訳、 2020年4月
クレール・シモン (Claire Simon)

1 –
日々夜々に
向圓を
抜ならば
心のままに
太刀やふられむ

Si jours et nuits
Vous dégainez
Mukô et Marui
Vous pourrez manier le sabre
Comme vous le voudrez

2 –
鬼にても
負けじと思ふ
心にて
わが身の術を
獨りみがかむ

Avec à l’esprit
L’idée de ne pas perdre
Même contre un monstre
Il faut perfectionner seul
Sa propre technique

3 –
怠らず
数を抜いても
工夫をも
せずば稽古の
いかで上がらん

Bien que sans relâche
Vous multipliez le nombre de dégainages
Sans vous poser de questions
Comment pourriez-vous progresser
Dans la pratique ?

4 –
習ふべき
師には細かに
尋ぬべし
問はぬ心は
いかで志らせん

Il faut poser des questions
Précises au maître
Auprès duquel vous apprenez
Comment pourrait-il connaître
Le cœur de celui
Qui ne le consulte pas ?

以上

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